第41回 豊橋市小中学生 話し方大会 最優秀賞作品
小学6年生 谷山千華さん

「78円の命」

近所に捨てネコがいる。
そのネコは目がくりっとしていて、しっぽがくるっと曲がっている。
かわいい声をあげていつも私についてくる。

真っ黒なネコだったので、魔女の宅急便から『キキ』と勝手に名付けてかわいがった。
人なつっこい性格からいつの間にか近所の人気者になっていった。

子ネコだったキキも2年たった頃にうれしい出来事があった。
赤ちゃんを産んだのだ。
でもキキは捨てネコだったので、行き場所のない子ネコたちを近所の鈴木さんが預かってくれた。
毎日のように子ネコを見に行って、まるで自分の飼いネコのようにかわいがった。

ある日、突然子ネコの姿が見えなくなった。
そこで鈴木さんに尋ねてみると、「○○センターに連れて行ったよ」と、うつむきながら言った。

私はうまく聞き取れず、何を言っているか分からなかったが、
たぶん新しい飼い主が見つかる所に連れて行って幸せに暮らせるんだなと思った。

次の日、学校でこのことを友達に話したら「保健所だろ?それ殺されちゃうよ」といった。
私はむきになって言い返した。「そんなはずない。絶対幸せになってるよ」

殺されちゃうという言葉がみょうに心にひっかかり、授業中も保健所の事で頭がいっぱいだった。
走って家に帰ると、急いでパソコンの前に座った。

『保健所』で検索するとそこには想像もできないざんこくなことがたくさんのっていた。
飼い主から見捨てられた動物は日付ごとにおりに入れられ、そこで3日の間、飼い主をひたすら待ち続けるのだ。
そして飼い主が見つからなかった時には、死が待っている。
10匹単位で小さな穴に押し込められ、二酸化炭素が送り込まれる。
数分もがき、苦しみ、死んだ後はごみのようにすぐに焼かれてしまうのだ。

動物の処分1匹につき78円。
動物の命の価値がたったの78円でしかないように思えて胸が張りさけそうになった。
そして、とても怖くなった。
残念ながら、友達の話は本当だった。調べなければ良かったと後悔した。

現実には年間20万匹以上の動物がこんなにも悲しい運命にある事を知り、さらに大きなショックを受けた。
動物とはいえ、人間がかけがえのない命を勝手にうばってしまってもいいのだろうか。
もちろん人間にも、どうしても動物を育てられない理由があるのは分かっている。
一体どうすればいいのか分からなくなった。

キキがずっと鳴いている。大きな声で鳴いている。
いなくなった赤ちゃんを探しているのだろうか。
鳴き叫ぶその声を聞くたびに、パソコンで見た映像が頭に浮かび、
いてもたってもいられなくなり眠れない夜が続いた。

キキのかわいい声もいつの間にかガラガラ声に変わり、切なくなった。
言葉が分かるなら話をしたい。私はキキをぎゅっと抱きしめた。

最近キキの姿を見かけなくなった。
もしかしてキキも保健所に連れて行かれたのかと一瞬ひやっとした。

それから1週間後、おなかに包帯を巻いたキキを見かけた。
鈴木さんがこれから赤ちゃんを産めない体に手術をしてくれたのだ。
私は心から感謝した。
この先キキも赤ちゃんも捨てられずにすむという安心した気持ちと、
鈴木さん家のネコになってしまったんだというさみしい気持ちとで複雑だった。
正直、とてもうらやましかった。

命を守るのは私が考えるほど簡単なことではない。かわいいと思うだけでは動物は育てられない。
生き物を飼うということは1つの命にきちんと責任を持つことだ。
おもちゃのように捨ててはいけない。
だから、ちゃんと最期まで育ててやれるという自信がなければ飼ってはいけない事を学んだ。

今も近所には何匹かの捨てネコがいる。
私はこのネコたちをかわいがってもいいのかどうか、ずっと悩んでいる